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エッセイ

黄色い振袖

著 / 久米孝子
サイズ:四六判
製本:ハードカバー
ページ数:238ページ
発行日:2010年6月18日

久米様は他にも書籍を作られています。


内容紹介(一部)
ビール、ちょっと毛色の変わった話

我が家にいとこが居候していた時期があった。いとこが二十歳、私が十歳だった。年上の兄弟がいない私にとって、彼女のすることなすことすべてが興味のまとだった。

毎晩、いとこは父と一緒に晩酌をした。父は日本酒、いとこはビール。彼女は瓶を半分ほど空けてから夕食にはしを付けた。食後、残ったビールを持って、私と一緒に使っていた二階の部屋に上がって行った。父は「独りでゆっくり飲みたいのだろう」と酒飲みらしい思い込みをしていた。

ところが、そうではなかった。残したビールをいとこは腕やすねに塗っていたのだ。初めて目にしたとき、私は「何をしているの」と思わず叫んだ。彼女は「ビールで体毛をふくと茶色くなって、目立たなくなるのよ」と平然と答えた。さらに「襟足に塗ってくれない」と注文した。

私は興味津々、早速手伝った。ビールを化粧用の綿に染み込ませては塗る単純な作業。だが、「毛に塗ってね。皮膚にはなるべく付けないように」といとこの注文はなかなか難しい。私が悪戦苦闘している間、彼女は足の爪にマニキュアを塗ったりしていた。一時間くらいあと風呂で流す。十日ほど繰り返すと黒い毛が金髪のようになった。

女性の飲酒には寛大な父だったが、食べ物を粗末にすることには厳しかったので、毎晩私たちはひそかにこの儀式を続けた。今思い出すと、かなり色気のある光景だったに違いない。芸者置屋の二階で、姉芸者の襟白粉を塗る妹分の図。あるいは、立てひざで足の爪を切る町娘と、後ろに回って日本髪を直す娘の図。浮世絵になりそうである。

あれから四十年近く経つ。いとこと違って体毛の少ない私に、ビール塗りの必要は無かった。だが、喜んでばかりいられない。最近、額の生え際の地肌が透けて見えるようになった。ビールで脱色するほど毛が有ったほうが良かった、と鏡を見るたびに思うのだ。