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短歌集

短歌集

著者 / 市川弘子
サイズ:A5判
製本:ハードカバー、クロス貼り、箱付
ページ数:156ページ(モノクロ)
発行日:2008年6月2日
内容紹介(一部)
昭和五十五年 六十五歳の作品

たんぽぽのわた散りはてし一本の茎を見て居り暮れなずむ野に

ねぎらはる母の日辛し育てたる記憶はうすく育ちていたり

育てたる記憶は漸くかろうじて育ちていたり母の日つらし

娘の青春次々に終わりいと近き家妻同士のもの言いとなる

こもるもの捨てる想いに歌つづるふき出づるごと雨の一日に

南風のひとたび吹かば芽吹かむと息ととのふる雑木々の森

背伸びして流るる雲にふれてをりケヤキのこずえ萌えたつところ

指先の小さき傷の癒えし朝春告ぐる風に身をまかせをり

夜空より降り来し星か花韮のしらじら浮かぶ草むらながむ

三寒のあとに続ける四温なく着ぶくれしまま待つ春遠き

陽に乾きまろくふくらむたんぽぽのわたの舞ひたつはつかの風に

紫陽花の重き花まり傾きてうす紫のしずくしたたらす

そり返りそり返り五月の空を見るみどり児の目に藍のうつれり

青々とかすり模様に植えられし早苗ふるわせ夕風わたる

冷え冷えと迫る闇のひろごりに月下美人の花開きゆく

今宵かも月下美人の開かむを我に託して夫は旅たつ

折々は宙にとまどふ赤とんぼ草の穂たたく尾の光つつ

市川様 画像

赤とんぼ宙にとどまり穂すすきをなびかす風のゆくえ見定む

呆々と過せし一夏に終止符を打たむすべにと秋の服裁つ

梅雨ふくむあじさいのまり重なりておもたくたわむ色ふかまりて

きんかんの甘煮への匂いたちこむる厨に立てば母のおもほゆ

花の六十路と言えば子等皆わらいたり戦乱の世を生きのびし今

可愛想な母と子ら言う子ら孫よ健やかなれよ仕合わせなれよ

卆寿なる母は幼に帰れるかその又母をしきり恋ほしむ