家族史 | 絆
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著 / 松田 透
- サイズ:A5判
- 製本:ソフトカバー
- ページ数:90ページ
- 発行日:2018年8月13日
内容紹介(一部)
まえがき
早いもので、妻の三回忌を迎える。そして、じいちゃんが亡くなってから十三回忌である。家の中を整理していると、多くの体験や手記が見つかった。
じいちゃんの四十五ページに及ぶ手記は、身震いするほど凄まじいものだった。
これを松田家の宝物として未来に伝えなければならない。との強い思いに駆られ、我が家のヒューマンヒストリーとして、じいちゃん、そして、私と妻の体験を加えて一冊の本として残すことにした。
(以下略)
待望の日
(前略)
この病院に傷つき倒れた身を預け、ただひたすら再起の道を見つめて一筋に戦ってきた年月とお別れする日がとうとう来たのである。朝な夕な狂わしいほど思い詰めていた妻と子のもとに遂に帰ることができるのだ。なんという喜びであろう。私にとっても妻子にとっても、希望の日がやってきたのである。この労災病院に丁度一年と一週間。その間、共に語り、共に慰め、また励ましあってきた僚友たちに別れの言葉を告げ、診療に全力を尽して下さった先生や看護婦の方々に、お礼を込めて挨拶をする。ともすれば涙が込み上げてくる。
やがて最後の一日も夕暮れが近くなった。退院する私を迎えに来るはずの妻と弟は、弟の仕事の都合により夕方になるという。その迎えが来たのは午後六時をいくらか廻っていた。妻は、家に残り迎える準備をするため来なかったが、どんなに来たかったであろうと思うといじらしい気持ちにかられる。
(以下略)